適性検査SPI3お役立ちコラム

リクルート・熊澤公平氏に聴く
人事領域におけるAI活用最新動向と日本企業への示唆
~AIの時代に人事が考え・取り組むべきテーマとは~

2026年03月09日
  • 人事アセスメントのナレッジ
  • 人事調査・研究

リクルートで長年にわたりテクノロジーと事業の最前線に立ち続けてきた熊澤公平氏に、人事領域におけるAI活用の最新動向について伺いました。
Agentic AIやDigital Twinといった最新トレンドから、AI時代における人間ならではの価値、日本企業人事への示唆まで、グローバルな視点と洞察に基づいた内容となっています。
「AIは人を代替するのではなく、能力を増強するもの」という視点から、日本企業がAIをどう活用し、自社の強みをさらに伸ばしていけるのか、人事が果たすべき役割と共に語っていただきました。

●インタビューしたのは
熊澤 公平(くまざわ こうへい)氏
株式会社リクルート_コーポレートディベロップメント室
Distinguished Systems Architect

1962年生まれ。1987年東北大学大学院工学部機械工学博士前期課程修了。
リクルートに新卒でITエンジニアとして入社。
科学システム事業部、スーパーコンピューター研究所、メディアデザインセンターを経て、リクルートでの大規模WEB基盤構築に携わる。
2003年、SIベンダーにIT/ビジネスコンサルとして転職。
2015年リクルートに再入社し、コーポレートディベロップメント室でグローバルでの販促領域およびIndeed等でのグローバルHR領域での市場調査、またITデューデリジェンス等を担当。
2022年、還暦を迎え、リクルート退職/再雇用で現職。

人事領域におけるAIのトレンド

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――人事領域におけるAIのトレンドについて教えてください。

熊澤公平氏(以下、熊澤):
2025年のHR tech Conferenceを例に取ると、キーワードとしては、Agentic AI、Digital twin、Superworkerあたりが挙げられるかと思います。

Agentic AIは、従来のAIエージェントや大規模言語モデル(LLM)とは異なり、ユーザーに代わって実際的な「行動(アクション)」を起こす能力を持つ点が最大の特徴です。アクションまで行うことができるので結果が蓄積され、次のアクションを改善していくことができます。

Digital twinは、従業員一人ひとりの業務上の貢献(メール、Slackなどのコミュニケーション、作成したドキュメント、コードリポジトリ、関わったプロジェクトのデータや資料、下した意思決定、他者との関連性など)を統合し文脈情報を学習することにより、その従業員の知識、スキル、経験を動的に再現するデジタル上のレプリカです。多くの企業において、経験豊富な従業員の異動や退職にともなう専門知識やノウハウの喪失などが問題となっています。Digital Twinは、この問題に対する強力なソリューションになり得ます。

最後にSuperworker。AIは当初思われていたような人間を代替するものではなく、人の能力を「増強(augment)」するものとして活用が進んできています。特にAIは単純なタスクから浸透する。単純なタスクを担務するWorkerは、AIという支援機能を得ることで、その生産性と能力が劇的に変わっていくのです。これをJosh Bersin氏は「Superworker」と呼んでいます。最近では上司が不要となっていくなかで、マネジャーには戦略的なシステム思考、人材と組織を成長させる力、卓越した実行力と生産性、共感に基づくチーム連携と協業、知識の伝達といったAIでは果たせない役割が求められていき、それを「Super Manager」とネーミングしています。今後こういった変化が社内の各役割にどう影響するのか、は議論が始まっているところです。

「スキルベースマネジメント」とは。欧米・日本の雇用環境とスキル定義の違い

――米国では「スキルベースマネジメント」もキーワードかと思います。どのような潮流なのでしょうか?

熊澤:
生成AIは、今の業務に導入する、AIを前提として業務プロセスを再構築することで生産性を向上させる、新しいサービス開発やビジネスモデル変革を実現することで収益をあげる、それぞれの観点で貢献し得るものです。こういったインパクトは組織の在り方、仕事・タスクの在り方に影響を及ぼします。仕事の変化に対して、人も変化していくことが求められているわけです。

米国では、そういった仕事・タスクの変化を踏まえ、LLMを通じてタスクを実行するスキルの可視化を行い、採用・育成・マッチングに活用していく、スキルベースマネジメントの考え方、そしてそこに活用できるサービスが広がってきています。 

ではこのトレンド・サービスがそのまま日本にあてはまるかというと、そうではないと見ています。

職務性・いわゆるジョブ型の雇用形態がベースとなる欧米の雇用環境では、「ハードスキル(専門知識や技術など、紐づく資格などで証明しやすいスキル)」がスキル定義の中心となります。日本の雇用環境である職能性やドイツなどで中心的な職種性においては「ソフトスキル(コミュニケーション、問題定義力)」「パワースキル(グループやチームを動かす力)」が重要なスキルとなります。

このように各国の雇用環境と重要視されるスキルは紐づいているので、ハードスキルを中心としたスキルベースマネジメントの考え方は、今の日本でそのままフィットするわけではない部分もあるかと思います。日本らしいスキルの可視化、マネジメントの在り方が求められてくると思います。

ハードスキルについては、言語化・可視化しやすいですが、ソフト・パワースキルの可視化については欧米でもサービス・ツールが浸透しているわけではありません。ソフト・パワースキルの領域を可視化するアセスメントツールであるSPIがここまで長年活用されているのは、日本の雇用環境とマッチしているからなのではないか、と思います。

人事領域におけるAIの兆しと脅威をどう捉えるとよいか

――トレンドキーワードをお伺いしていると、人事領域におけるAIも想定以上のスピードで進化が進んでいるように思うのですが、AIの進化は、「生産性が上がる」ポジティブな側面と「AIの影響で仕事が奪われる」といった脅威に目が行く側面があります。どのように捉えるとよいでしょうか?

熊澤:
業務で日々活用されている方は実感もあるかと思うのですが、AIによってできることは大きく広がっているものの、万能ではありません。

AIはインプットされたこと・オーダーについて広く知識を探し出し、答えを出すという点で非常に優秀です。ただ、知識と知能という対比で見ていくと、知識寄りであり、状況に適応したり応用したり、0→1を考えたりということには適さない、といえます。

その点において生物、特に人間はそこが強い。想定外の環境に置かれた際に、そこに対して過去の経験から、あるいはその場を観察しながらすぐに適応してしまう、そういった知能という観点については圧倒的に生物・人間の方が強い、といえます。

AIにはできないこと、人間だからこそできること

―― AIにはできない、人間だからこそできることについてもう少しお伺いしたいのですが、人間ならではの力とは何でしょうか?

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熊澤:
「問題定義力」ではないかと思います。分解すると以下のような力です。

・情報収集力:デジタル化されていない情報はもちろん、関連しそうな周辺情報を探索し集める
・価値定義力:意味を見出しその価値を評価できる
・適用力:価値の再定義と、共感者の再構成
・共感力:価値に共感する人を増やせる能力

先ほどお話ししたとおり、AIは知識を集めてきて、分析して、答えを出すことに優れていますが、問いを立て、意味を見出し、価値を定義し、人を動かすことはできません。人が解くべき問題を定義したうえでAIを活用することで、問題分析力・実行支援力を強固にすることができる便利な武器として使い倒すのがよいと思います。

AIの進化を踏まえ、人事が考えるべき・取り組むべきこととは

――AIがここまで進化しているなかで、人事が考えるべき・取り組むべきこととは何なのでしょうか?

熊澤:
自社のコアコンピタンスは何かについて考える、働く人のどういった働きぶりがそこにつながっているかを見つめる、そこで生きてくるソフトスキルを分析し、採用や育成・配置に生かしていく、という点は今までも人事のコアな業務であり、これからもそうであり続けるのではないかと思います。

そこに集中するために、それ以外の業務の効率化でAIを活用していったり、また自社のコアコンピタンスやソフトスキルについて言語化するためのデータ化や分析、という面でAIを使ったり、という考え方・使い方がいいのではないかと思います。

最近、日本企業のグローバル展開について調査・研究をしているなかで、日本のメーカーのカイゼン文化やサービス業の品質は世界に稀に見るレベルの高さであり強みである、とあらためて感じています。また、成功している日本企業の共通要素をほかの日本企業にもあてはめられないか、そうしていくことで、世界でビジネスをより伸ばしていける企業が増えていくのではないか、ということを考えています。

 成功している企業の共通項は、自社のコアコンピタンスを言語化していること、それを型として徹底していることなのではないか、と感じています。また、トップダウンで型をインプットしてやりきる・合わせきることを要望するのではなく、なぜそれが重要なのかということを言語化してそことセットで伝えていっている、ということが日本企業の特性だと思います。そうしていくことで、大元の目的や意図が伝わりますから、現場でさらなる改善が生まれていき、そこが褒められ、強化されていく、という良いサイクルが回っていくのです。

そのためにも、自社において何をコアな価値として提供するのか、大切にすることは何か、を言語化して伝えていくことが重要であり、人事としてもその言語化を経営ボードと共に進めたり、その価値を支えるソフトスキルや人材を明確にすることで再現性を担保することに貢献していけるとよいのではないか、と思います。

また、昨今のAIの進化は、PCスキルに長けているわけではない普通の人ができることが拡張する、という点が特徴的だと捉えています。日本では現場から改善が進んでいくことが非常に多くありますし、それが企業のコアコンピタンスとなっているケースも多々見られるので、日本こそAIによって事業が進化する可能性を持っているのではないかと思います。

現場に根差した、現場の人に支持されるサービスが増え、普通に使われてくると、「日本らしいAI活用が浸透してきた」といえるように思います。良い形でAIを使いきり、自社の強みを強化していく日本企業が増えることを願っています。

自社において重要なソフト・パワースキルを可視化するツールとしてのSPI
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