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2026年のキャリア採用市場
「厳選採用」と「人材不足」の
同時進行が問いかける、これからの人事のあり方
はじめに
構造的な人手不足が常態化し、近年は転職希望者が1,000万人を超える中、企業のキャリア採用(中途採用)は大きな転換点を迎えています。かつては欠員補充を目的とするケースが多かった中途採用が、今では「自社にいない変革人材の獲得」や「外部の知見・スキルの取り込み」を目的とした戦略的な手段へと変化しました。一方で、AI技術の急速な進展は求める人材像そのものを塗り替えつつあり、採用の現場では「必要な採用人数の確保」と「自社に必要な人材の見極め」を同時に考える必要性が高まっています。
こうした環境の中で、人事担当者にはどのような視点と対応が求められるのでしょうか。インディードリクルートパートナーズ リサーチセンターのセンター長である津田氏に、「転職市場インサイト 2025年度1-3月期調査」のデータをもとに、キャリア採用市場の現状と2026年の主要トレンド、そして企業が取るべき対応策について伺いました。
雇用流動化の現在地――転職希望者の増加と転職市場の変化
――労働市場の変化、特に転職市場の変化やキャリア採用の現状について教えてください。
現在の労働市場には「二つの力」が働いています。一つは景況感がもたらす成長機会、もう一つは構造的な人手不足による競争の激化です。2013年頃から人手不足は一時的な現象ではなく、社会の基本的な状態として定着してきており、単に景況感が採用市場を大きく左右する構造とは異なる、日本特有の状況が形成されています。
転職市場については「大転職時代」とも言われ、転職希望者は大幅に増加しています。市場としての成熟度が高まり、若い世代を中心に転職が当たり前のキャリア選択肢として定着してきています。内容面では、正社員から正社員への転職が増えており、より安定した雇用環境でのキャリアアップを志向する動きが目立っています。
企業の人事課題という観点では、新卒採用からキャリア採用へのシフトが明確に進んでいます。10年前は新卒採用が人事課題の上位を占めていましたが、今ではキャリア採用が上位に挙がるようになっています。「次世代リーダーの育成・確保」は常に上位に入る課題ですが、その手段としてキャリア採用の比重が増してきているのです。
さらに注目すべきは、キャリア採用の目的そのものの変化です。かつて、キャリア採用は欠員補充が主な目的でしたが、今は「自社にいない変革人材の獲得」や「外部の知見・スキルを取り込む」ことを目的とした採用が増えています。いわゆるJTC(伝統的な日本企業)においても、管理職などキーポジションの採用が増えており、私はこれを「採用市場における地殻変動」と捉えています。
データで読む市場の現在地――拡大する採用市場と、変わる人材ニーズ
――企業の採用予定人数、求職者数や応募数など、数値の変化や推移はいかがでしょうか。
「転職市場インサイト 2025年度1-3月期調査」によると、2021年度10-12月期を100とした指数で、企業の採用予定人数は313(3.13倍)、求職者数は203(2.03倍)、応募数は259(2.59倍)と、いずれも大幅に増加しています。キャリア採用市場全体としては拡大傾向にあることが確認できます。

※出典:インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター
『労働市場レポート 転職市場インサイト 2025年度1-3月期調査』 採用予定人数・求職者数・応募数の推移(2021年度10-12月期=100)
https://jbrc.recruit.co.jp/data/data20260427_4182.html
直近の四半期で見ると、求職者数(+25pt)、応募数(+27pt)ともに増加が続いています。採用予定人数(+8pt)については、IT・通信業界での即戦力志向の強まりを背景に、経験やスキルをより重視した計画見直しの動きが一部に見られます。こうした動きは、採用市場が一律に縮小しているというよりも、企業が必要な人材をより明確にしながら採用計画を見直している局面と捉えることができます。
キャリア採用全体を広げながらも、求める人材像をより明確にし、マッチング精度を高めようとする動きが広がっています。採用人数を確保しながらも、採用する人材の見極めをより丁寧に行う方向へシフトしています。
――業種別や職種別の傾向や特徴について教えてください。
業種別では、IT・デジタル領域の採用が引き続き活発である一方、サービス・アウトソーシング業界の採用予定人数が増加しています。コンサルティング業界も活況で、特に中小企業向けのDX支援ニーズが高まっており、戦略立案だけでなく実行まで伴走するコンサルティングファームへの需要が顕著です。金融業界では採用の一時的な調整局面があったものの、業界全体としての人材ニーズは引き続き底堅く推移しています。
職種別では、機械・電気・化学エンジニアの採用予定人数が伸びている状況です。ITエンジニア領域では、求められるスキルや役割が変化しており、AIシフトを背景にした新たな役割・ポジションへのニーズが高まっています。また応募者数も増加しており、AIスキルや新領域への対応力を磨くことが、ITエンジニアにとってキャリアの選択肢を広げる鍵となっています。
AIの台頭などによって、これまでの職種の概念を超えた新しい役割が生まれてきています。職種とはタスクの集合体と捉えると、AIや自動化によってそのタスクが分解・再編成されることで、職種そのものの在り方も変わっていきます。営業職の細分化が進んでいることや、外注していた業務を内製化する動きなど、タスクに関わる人員構成自体が変化しており、それは新しいキャリアの形が生まれているということでもあります。
――企業規模、特に中小企業における傾向はいかがでしょうか。
中小企業においても人手不足は変わらず重要な経営課題です。そもそも求人に応募が来ないケースも多々見られます。応募が集まっている中小企業では、働き方や雇用条件の改善に取り組んでいる例が多く見られます。当社の分析でも、複数の職種で求人票に記載された募集職種の範囲や休日条件は、同じ地域・職種・規模・賃金水準の求人どうしを比べても応募の入りやすさと結びついています。制度や環境を整えることで採用力を高めることは、規模を問わず企業にとって十分に実現可能な施策です。特に製造系では人材ニーズが高く、求人検索エンジンの活用やダイレクトリクルーティングなど、多様な採用手法を使い分けることで成果を上げている企業も増えています。
2026年の主要トレンド――即戦力志向の深化、AI人材の裾野拡大、多様な人材の活躍推進
――経験者・即戦力へのシフトと「厳選採用」の加速について、引き続きトレンドとして続いていくのでしょうか。
多くの企業で採用人数を確保する一方、自社に必要なスキルや経験をより慎重に見極める傾向が強まっています。経験者採用を主軸に置きながらも、企業文化との適合性やポータブルスキルを重視する「丁寧な採用」の姿勢が広がっています。
一方で、求める要件を満たす人材の確保は容易ではありません。そのため、経験者・即戦力人材を探すだけでなく、採用要件の見直しや職務の再定義を通じて、採用対象となる人材の幅を広げようとする動きも見られます。採用プロセスや入社後の受け入れ体制まで含め、必要な人材を確保するための方法を見直す動きは、今後も続いていくと考えています。
そのため今後は、採用要件を見直すだけでなく、職務そのものを再定義することも重要になってくると考えています。業務を分解したり、AIやテクノロジーで代替できる部分を見直したりすることで、「この仕事にはどのような人材が本当に必要なのか」を改めて捉え直す。その結果、これまで採用対象としていなかった人材にも活躍の可能性が広がります。
経験者・即戦力を採用することだけを目的にするのではなく、職務の再定義と採用のあり方を一体で考えることが、これからの人材確保ではより重要になるのではないでしょうか。
――AI技術に伴う人材ニーズの変化について、ITエンジニア以外のビジネス系職種ではどのような変化が起きているのでしょうか。
この領域の変化は、2026年のキャリア採用市場を語る上で最も注目すべきトレンドの一つです。レポートによると、2025年のAI関連求人は、エンジニア系職種が2017年比で約11倍(指数1,135)、営業・企画・管理部門系職種が約5倍(指数479)に拡大しています。AI人材需要は「AIを開発する人材」にとどまらず、「AIを活用して業務成果につなげる人材」へと裾野を広げているのです。
ビジネス系の職種においても、AIに関連したスキルや知識を持つ人材へのニーズが高まっています。AIといっても求められるレベルは幅広く、高度な技術者から、AIツールを業務に活用できるビジネスパーソンまで、さまざまなレベルで需要が生まれています。
レポートでは、営業・企画・管理部門系職種におけるAI人材の評価観点をLevel 1からLevel 5までの5段階で整理しています。注目すべきは、評価軸がAIに関する知識の多寡よりも、担当業務の課題に即してAIを活用する業務設計ができること、試行と改善を重ねながら活用実績を積み上げられること、関係者を巻き込みながらAI活用を推進・定着させられることに置かれている点です。つまり、AIの専門知識そのものよりも、変化の大きい状況下で試しながら進め、現場実装に結び付ける推進力が重視されています。

※出典:インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター
労働市場レポート 転職市場インサイト 2025年度1-3月期調査 ◆営業・企画・管理部門系職種におけるAI人材の評価観点例
https://jbrc.recruit.co.jp/data/data20260427_4182.html
こうした動きは、AI技術の進展が既存の業務や職種の役割を再定義し、新たなキャリアの可能性を生み出していることの表れと言えます。変化を前向きに捉え、自らのスキルを継続的にアップデートしていくことが、多くのビジネスパーソンにとってキャリアを広げるチャンスになっています。
――慢性的な人手不足を解消するための企業のアクション変化について教えてください。
少子高齢化や労働力の多様化を背景に、現場を支える技術専門職や製造オペレーターの安定確保が経営課題となっています。レポートでは、ミドル・シニア層の活用など、柔軟な要件設定や多様な人材の活躍推進を通じて採用力を高めようとする動きが市場全体に広がっていることが示されています。
50代の転職実態に関するデータも注目に値します。50代の求職者・転職者は2021年度比で約3.5倍に拡大しており、豊富な経験を活かしたキャリアの再設計や新たなフィールドへの挑戦が広がっています。40代以下の他世代に比べて、書類選考通過率が低いことは事実です。しかし特筆すべきは、面接に至ってからの内定率は他世代と遜色がない水準にある点です。書類選考の段階でのマッチング精度を高めることが企業側の課題であり、適切な自己PRや職務経歴書の工夫によって、選考を通過する可能性は十分に開かれています。
また、採用手法の面では、アルムナイ採用(退職者の再雇用)を活用する企業が増えています。
アルムナイ採用は単なる採用手法の一つとしてではなく、退職者とのリレーション構築という観点からも注目されています。企業に対してエンゲージメントを持つ人材と継続的につながっておくことが、将来の採用につながるという考え方が広がっています。
採用チャネルが多様化する中で、各チャネルの特性を理解した上で選択・集中することの重要性も高まっています。求人票の訴求内容を磨くこと、丁寧な面接プロセスの設計、内定後の候補者フォローアップといった「採用体験の質」を高めることが、優秀な人材との縁をつなぐ鍵となっています。
企業が取るべき対応策と人事に求められる役割――「選ぶ側」から「選ばれる側」への転換
――これらのトレンドを踏まえて、企業はどういった対応策を講じていくべきでしょうか。
企業は「選ぶ側」から「選ばれる側」へと意識を転換していく必要があります。この変化の方向性を私は「Closed to Open」、すなわち閉じた組織から開かれた組織へと変わっていくことだと表現しています。
――具体的に人事にはどのようなアップデートが求められるのでしょうか。
私が各社と話したり、調査結果を参考に言えることは、「求める人物像」を明確に言語化すること、そして現場を巻き込んで採用活動を進めることです。
重要な課題の一つはミスマッチの防止です。
「即戦力採用」という言葉はよく使われますが、スキルや経験だけでなく、カルチャーフィットも採用判断において不可欠な要素です。入社後に力を発揮できる環境を整えることと、選考での見極めをセットで考えることが、長期的な採用成功につながります。
雇用の流動化が進む中で企業はフィッティング(人材と組織の適合)やオンボーディング(入社後の定着・活躍支援)をより真剣に考えていく必要があり、選考での見極めに使う手段を整えることの重要性も増しています。適性検査のような客観的な指標を組み合わせ、面接の印象だけに頼らない形にしていくことが有効だと考えています。
さらに、AIの進化によって変化のスピードが加速する中、人事にはある種の「矛盾のマネジメント」が求められるようになっています。現場の即時的な採用ニーズと、企業の中長期的な方向性が必ずしも一致しないこともありますが、その摩擦を前提として考えていく姿勢が重要です。
そのため、人事には、現場から上がってきた採用ニーズをそのまま充足するだけではなく、事業や経営の方向性を踏まえて、その採用が本当に必要なのか、どのような人材を外部から獲得すべきなのかまで踏み込んで議論する役割が求められます。部署単位の個別最適ではなく、企業全体の人材ポリシーを定めた上で、短期的な採用充足と中長期的な組織戦略の両方を見据えて議論できる存在になっていくことが求められます。
全体最適の視点を持ち、採用市場の相場観(マーケット情報)を把握していることも、人事担当者にとって重要なケイパビリティです。
AIやテクノロジーの活用もまた、人材活用の可能性を広げる観点で不可欠です。CHROや人事部門に限らず、企業全体でAIを活用していくことが当たり前になっていくでしょう。
重要なのは、自社の経営哲学を軸に置いた上で、AIをどう活かすかを考えることではないでしょうか。合理性の追求だけでなく、テクノロジーによって人材の力をどのように解放するかという視点が欠かせません。
これからのキャリア採用市場――変化を前向きに捉え、人事の役割を再定義する

――今後のキャリア採用・転職市場の展望についてお聞かせください。
働く人にとって転職は、キャリアを考える上での選択肢の一つとして広がっています。若年層だけでなく、近年はミドル・シニア層でも転職者数が伸びており、転職行動は幅広い年代に広がりつつあります。今後も企業と個人の双方で外部労働市場を活用する動きは広がっていくと見ています。
転職市場はもうしばらく活況が続くでしょう。また、新卒採用市場も引き続き活発であり、採用市場全体としてダイナミックな動きが続くでしょう。
――最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。
AIやテクノロジーが急速に進化する中でも、「人」こそが価値の源泉であることに変わりはありません。人事の役割は確かに変わっていきます。かつては労務管理や採用といった計画的な業務の実行者としての側面が強かった人事が、今後はより企業経営に近い、影響力の大きな役割へと進化していくでしょう。その変化を前向きに捉え、自社の人材戦略を経営と一体で考えていただきたいと思います。
人手不足が続く一方で、自社に必要な人材を見極める採用の重要性も高まり、AI技術がもたらす人材ニーズの変容や採用コストの最適化など、キャリア採用を取り巻く環境は大きく変化しています。しかし、それは同時に、人事の役割が経営により近い位置へと進化する好機でもあります。短期的な採用充足に追われるだけでなく、自社の経営哲学を軸に据えた人材戦略の再設計に取り組むことが、人と組織が共に成長し続けるための土台となるのではないでしょうか。
本記事は、インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター センター長 津田氏へのインタビューをもとに構成しました。データは「転職市場インサイト 2025年度1-3月期調査」(インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター、2026年4月27日発行)に基づいています。レポートの詳細やAI人材の評価観点例など、採用実務に活用できる情報が掲載されていますので、ぜひあわせてご覧ください。
インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター
『労働市場レポート 転職市場インサイト 2025年度1-3月期調査』
https://jbrc.recruit.co.jp/data/data20260427_4182.html
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