お役立ちコラム

人材要件の入門ガイド
目的から項目・フレームワーク・設計方法まで
総まとめ

2025年07月07日
  • 採用のノウハウ

面接でどんな点を見極めるべきか迷う、採用後にミスマッチに気づいて人事・社員共に不幸せな状態にしまう...そんな悩みをお持ちの企業に見直していただきたいのが「人材要件」です。

 

人材要件は採用活動の羅針盤とも言える存在であり、内容があいまいな状態になっていると、担当者ごとに評価基準が違って選考の合否判断が上手くいかない、採用に工数がかかりすぎる、入社した社員が思ったように活躍できないなど、様々なプロセスで問題が発生してしまいます。

 

この記事では、人材要件の基本から具体的な設計の仕方まで、網羅的に解説します。ぜひ参考にして、自社の人材要件の設計を見直してみてください。

1. 人材要件とは

人材要件とは、「どのような人材を採用したいか」を定義したものです。もちろん言葉の意味は知っている方がほとんどかと思いますが、なぜ人材要件が必要なのか、「求める人物像」など似たような言葉とは何が違うのかまで理解できているでしょうか。

 

1-1. 人材要件の必要性

人材要件が定義されていないと、採用活動において以下のような問題につながります。

 

  • どんな人をターゲットにして募集をかければいいかわからない
  • 自社にマッチした人を見抜けず、選考で落としてしまう
  • 面接で重要な観点を見逃して、ミスマッチな人を通過させてしまう
  • 面接者によって判断基準のズレがあり、余計な議論が発生する
  • 入社意欲を高めたいのに、自社の魅力を上手く伝えられない
  • 採用した人材が入社後にギャップを感じて早期退職してしまう

 

企業によっては、採用担当者が頭の中でぼんやりと考えているだけだったり、過去に採用した人材の経歴や人柄をなんとなく踏襲するだけになっていることもあるでしょう。しかし、人材要件はハッキリと明文化し、社内の共通認識とすることに意味があります。

 

1-2. ペルソナ・募集要項・求める人物像との違い

「人材要件」と似た言葉に「ペルソナ」や「募集要項」、「求める人物像」がありますが、意味や目的には微妙な違いがあります。

 

  • 人材要件:社内で採用の基準とするために定義する内容で、募集から選考までプロセス全体に関係する
  • ペルソナ:より具体的な架空のプロフィールに落とし込んだもので、主に採用ターゲットを想像しやすくするために活用する
  • 募集要項:業務・待遇・応募条件などの求人内容をまとめたもので、候補者が見て応募を判断できるように作成する
  • 求める人物像:望ましい行動や価値観に重きを置いた内容で、社内用に整理することもあれば、候補者に伝えることもある

 

人材要件は、ペルソナや募集要項の土台にもなるため、まずは人材要件をしっかりと整理することが重要です。

 

1-3. 新卒採用・中途採用における人材要件の違い

新卒採用と中途採用では、人材要件の設計にも違いがあります。

 

  • 新卒採用:基本的に業務経験がないため、ポテンシャルや人柄が重視される
  • 中途採用:未経験者の採用でない限りは、具体的な経験・スキルが重視される

 

この記事においては、どちらの人材要件を設計する上でも役に立つ内容をまとめていますが、新卒採用か中途採用かによって、最終的には内容や優先順位を調整しましょう。

 

 

2. 人材要件を設計する目的・メリット

人材要件を明確にすることで、採用活動はより効率的かつ的確になります。ここでは、主な3つの目的・メリットを紹介します。

 

2-1. 選考で見極めやすくする

書類選考や面接において、「合否の判断軸があいまい」「面接の担当者によって評価が異なる」といった事態は、採用活動の質を大きく下げてしまいます。

 

人材要件を明確にすることで、選考の基準および評価項目を統一し、採用活動の質とスピードを両立できます。採用に関与する社員が増えるほど、人材要件について共通認識を持つことの重要性が高まります。

 

2-2. 魅力を伝えやすくなる

「なぜこの会社で、この仕事をするのが魅力的なのか?」を明確に伝えるためにも、人材要件の設計が必要です。

 

どんな経験や志向を持った人を採用したいのか、人材要件として整理しておくと、その人がどういった悩みを持っていて会社や仕事に何を求めているのか想像しやすくなり、それに合わせて自社の魅力を伝えられるようになります。

 

2-3. 入社後のギャップを抑えられる

人材要件が定まっていないと、入社後にお互いに「こんな人だと思っていなかった」「こんな会社・仕事とは思っていなかった」というようにギャップが生まれる可能性が高まります。

 

まずは企業側が採用する人材に求めたい内容を明確にしておくことで、選考を通じて双方が求めていることをすり合わせやすくなります。その結果として早期離職のリスクが下がり、採用や育成のパワーやコストを最適化できます。

 

3. 人材要件で設定すべき項目

人材要件の内容に正解はなく、採用の目的やポジションによって必要な項目は変わってきます。ここでは特に重要な要素を6つに分けて紹介します。

 

3-1. 能力・知識

業務を遂行する上で必要となるスキルです。営業であればプレゼンテーション力、経理であれば会計知識、そのほかは語学力などが挙げられます。

 

3-2. 経験・実績

過去の職務経験や、そこで得た成果・役割です。たとえば「3年以上のマネジメント経験」や「ウェブアプリの開発実績」など。新卒・未経験者の採用であれば重視しないこともあります。

 

3-3. 資格・学歴

「簿記2級」「四年制大学卒以上」といった要件です。医療関係など一部の専門職では必須となりますが、職種によってはこの項目を要件としないこともあります。

 

3-4. 行動特性

業務の進め方や組織との関わり方についての傾向・スタイルです。「自律的に行動できる」「チームで協力して働ける」といった内容になります。

 

3-5. 価値観・志向性

「数値目標の達成にやりがいを感じる」「変化を楽しめる」など、その人が大切にしている考え方や働く動機です。自社のカルチャーとのマッチ度を測る観点で重要な要素となります。

 

3-6. 勤務条件

「出張・転勤に対応できるか」「繁忙期の業務量を許容できるか」といった働く上で人を選ぶ要素があれば、それも人材要件の内容に含めておきます。

 

4. 人材要件のフレームワーク

人材要件を上手く整理するのが難しければ、何らかの「型」を活用するのが効果的です。ここでは代表的な4つのフレームワークを紹介します。

 

4-1. 氷山モデル

知識・スキルなどの「見えやすい要素」と、性格特性などの「見えにくい要素」に分けて整理する方法です。

 

  • 【上層】知識・スキル
  • 【中層】志向・欲求/姿勢・態度/仕事観・組織観
  • 【下層】資質(性格特性・基礎能力)

※下層にいくほど変わりづらく、見えにくい

 

人材要件が見えやすい要素だけに偏らないように注意したり、入社後に教育で変えられる要素と変えにくい要素に分けて考えたり、各要素ごとに最適な見極めの方法を検討するために活用できます。

4-2. 職務適応・組織適応・自己適応

社員が入社後に目指したい状態を3つの側面に分けて、それに紐づける形で要件を整理する方法です。

 

  • 職務適応:職種・ポジションに求められる成果を出すこと
    (例)業務を遂行するために必要な経験・スキルなど
  • 組織適応:職場風土や人間関係に馴染んで組織の期待に応えること
    (例)社員との性格的な相性やコミュニケーションの特性など
  • 自己適応:「この会社でやっていける」という感覚を持てること
    (例)興味関心の傾向やモチベーションの源泉など

 

入社後の活躍には、すべての適応が必要になってくるため、この3つの観点で整理することで、自社とのマッチ度を測るための要件を漏れなく設計しやすくなります。

 

4-3. コンピテンシーモデル

高い成果を出している社員に共通する行動特性を分析し、それを基準として活用する方法です。どんな項目が挙げられるかは対象とする社員によって変わりますが、たとえば以下のような形で整理します。

 

  • 課題解決力:問題の本質を捉え、現実的な解決策を考え抜く
  • 主体性:指示を待たずに、自ら考えて行動を起こす
  • 粘り強さ:困難な状況でも簡単にあきらめず取り組み続ける
  • 感受性:相手の感情や立場に配慮し、適切に対応できる
  • 柔軟性:状況の変化に応じて、考えや行動を切り替えられる

 

実際に活躍している社員の特性を人材要件のベースにすることで、その基準で採用した人材は同じように入社後の活躍を期待しやすくなります。

 

4-4. STARモデル

特定のある場面に焦点を当てて、期待する行動の要件を整理する方法です。「STAR」は以下の項目の頭文字となっています。

 

Situation(状況):どんな場面だったか

Task(課題):何を求められていたか

Action(行動):どう取り組んだか

Result(結果):結果どうなったか

 

STARモデルで理想の行動と成果を定義しておき、面接でも同じ項目に沿って候補者の過去の経験を聞くことで、自社でも期待する行動を取って成果を挙げられそうか確認しやすくなります。

 

4-5. MUST/WANTによる分類

最もシンプルかつ実用的なのが、要件を「MUST(必須)」と「WANT(歓迎)」に分ける方法です。

 

MUST(必須要件):絶対に満たしていないと選考を通過できない

WANT(歓迎要件):プラスの評価になるが満たしていなくても通過できる

 

採用する人材に求める要素を挙げていくと、どんどん理想が高くなっていき、要件が厳しくなりすぎてしまうことがよくあります。MUST/WANTに分類していくと、すべて必須要件ではないことが認識できて、そうした事態を避けられます。

 

 

5. 人材要件の決め方

ここからは実際に人材要件を設計する方法を解説します。「人材要件を見直したいけど何から考えればいいかわからない」という場合は、この流れに沿って検討を進めてみてください。

 

5-1. 採用の目的・目標を理解する

まずは「何のための採用か」を明確にすることがすべての出発点です。

 

・事業拡大による新ポジションの立ち上げか

・退職補充による欠員補充か

・若返りや組織風土の刷新か

 

目的によって、求める人物像の要件も変わってきます。「とにかく人が欲しい」という曖昧な状態から脱し、「この採用で達成したい状態」を明文化するところから始めましょう。

 

5-2. 募集ポジションの業務・役割を洗い出す

次に、そのポジションに求められる業務内容と役割を整理します。たとえば営業職であっても、新規顧客と既存顧客どちらが中心なのか、部下のマネジメント・育成も役割に含まれるのか、などによって必要な能力・資質は大きく異なります。

 

実際に現場で働いている社員の声も聞きつつ、「日常的にやっている業務」と「求められる成果」の両方を可視化しましょう。

 

5-3. 自社のカルチャー・環境を把握する

「十分な経験とスキルはあると見極めていたはずなのに、入社したら思っていたように活躍できず退職してしまった...」というケースは、自社のカルチャーや環境とのミスマッチが原因の場合が多いです。

 

そうしたカルチャーフィットを見極めるため、成果主義かプロセス重視か、社員同士の距離は近いか遠いか、など募集ポジションの業務や役割とは関係ない、自社の特徴的な部分も把握しておきましょう。

 

5-4. 活躍人材の特徴をまとめる

さらに自社で活躍している社員の特徴や共通点を分析してまとめると、「どんな人が業務や職場環境に合っているか」だけでなく、「どんな人が活躍できるか」まで考えやすくなります。

 

活躍人材の特徴を調べるには、現場の社員やマネージャーへのヒアリングだけでなく、適性検査の結果なども参考になります。

 

5-5. 必要な要件の要素を挙げる

集めた情報をもとに、必要な能力・経験・行動特性などを洗い出していきます。この段階では、思いつく限り挙げてOKです。

 

どのように挙げていけばいいか迷う場合は、この記事の「人材要件で設定すべき項目」や「人材要件のフレームワーク」を参考にしてください。

 

5-6. 要件に優先順位を付ける

一旦たくさんの要素が挙げられたかと思いますが、おそらく全要素を満たしている人材はそういないでしょうし、すべてを選考で見極めるのも難しいです。

 

そこで特に重要な要素を絞り込み、優先順位をつけていきます。「MUST(必須)・WANT(歓迎)」で分けたり、氷山モデルをもとに「入社後に変えやすい要素・変えにくい要素」で分けていってもいいでしょう。

 

5-7. 採用市場の市況感を確認する

自社にとって理想的な人材の要件が決まっても、それに当てはまる候補者が存在しなければ意味がありません。

 

転職サイトに掲載されている他社の求人を見たり、エージェントに意見を聞いてみたりして、自社の要件が採用市場の相場とかけ離れていないか確認しましょう。場合によっては、市場に合わせて求める要件を調整する判断も必要です。

 

5-8. 自社が訴求できる魅力を考える

人材要件が現実的に機能しそうか確かめるために、その要件を満たした人材を自社が口説き落とせそうか考える、という方法もあります。求める人材に見合った十分な魅力を伝えられないと感じる場合は、高望みしすぎているかもしれません。

 

自社が訴求できる魅力について人材要件と同時に考えておくと、この後の工程にある募集要項・求人の作成や選考での動機づけにも役立ちます。

 

5-9. 経営層・現場とすり合わせる

人材要件がまとまったら、経営層や現場の社員に共有し、認識にズレがないかすり合わせしましょう。特に選考の関係者や、候補者が配属される可能性がある部門の上長には、必ず確認が必要です。

 

このすり合わせが不十分だと、結局は選考での評価基準のブレや入社後のギャップを引き起こしかねません。

 

5-10. 募集・選考の内容に反映する

募集要項の内容や選考での評価項目などに反映して、人材要件は初めて意味を持ちます。採用プロセスのすべてが、人材要件と連動している状態が目指すべき姿です。

 

さらに言えば、「〇〇の経験は選考で見極めるが△△の能力は入社後に育てる」といったように、入社後のオンボーディングや育成にまで紐づいていると理想的です。

 

5-11. 定期的に見直す

人材要件は、一度決めて終わりではありません。実際に応募があった候補者の傾向や、選考での印象、採用後の活躍などを踏まえて、定期的に見直すことで、より良いものになっていきます。

 

最初は時間をかけすぎずに暫定的な人材要件で募集を始めてみて、採用活動を続ける中で、だんだんブラッシュアップしていくのも一つの手です。

 

6. 人材要件でよくある失敗

最後に、人材要件の設計において、よくある失敗例を紹介します。自社の現状と照らし合わせて、改善のヒントにしてください。

 

6-1. 理想を高くしすぎる

あれもこれもと求める要素を人材要件に盛り込んだ結果、「そんな人は存在しない」という状態に陥ってしまうケースがよくあります。まず理想像から考え始めるのは良いですが、現実的な基準に調整する工程を忘れないようにしましょう。

 

6-2. 採用担当者の感覚だけで決めてしまう

「なんとなくこういう人が合っている気がする」という担当者の主観で決めてしまうのは危険です。選考や適性検査のデータ、現場の社員の声など、多角的な視点から情報を集めて整理しましょう。

 

6-3. 社内で共通認識にできていない

人材要件は採用担当者だけが把握しているだけでは不十分で、社内での共通認識にすることが重要です。「このポジションに求めたいのは〇〇と△△で、面接で見るのは◆◆...」と、採用に関わる社員の誰に聞いてもズレがない答えが返ってくる状態を目指しましょう。

 

6-4. 募集や選考に活かせていない

せっかく人材要件を設計したのに、求人の原稿には関係ない内容が書かれていたり、担当者が個人の主観で面接をしてしまっては意味がありません。人材要件を見直したら、採用プロセス全体を見直す意識を持ち、必要に応じてチェックシートなどを用意して紐づきを確認しましょう。

 

6-5. 一度決めてそのままにしている

事業環境や組織構造、採用市場の変化に応じて、人材に求める要件が変わることもあるでしょう。そのため、半年や一年など一定の期間、もしくは募集の区切りごとに、あらかじめ見直しの機会を設けておきます。

 

7. SPI3を活用した人材要件の設計

人材要件の設計は、現場の社員へのヒアリングや過去に選考した候補者の印象など、定性的な情報をもとに考えることが多いです。一方で、定性的な情報だけを参考にしていると、個人の主観に影響されて内容が偏ったり、社内での共通認識にするための言語化が難しかったり、上手く人材要件の設計ができないケースもあります。

 

そんなときに活用いただきたいのが、リクルートマネジメントソリューションズの適性検査「SPI3」です。

 

SPI3は、「基礎能力」や「職務への適応のしやすさ」などの観点で、人材の特徴を数値化できます。つまり、自社で活躍している社員のSPI3の受検結果を見れば、どんな特徴を持った人材が入社後に活躍しやすいか、客観的なデータでわかるということです。

 

それによって、より実態に即した精確な人材要件の設計が行えるようになるだけでなく、SPI3の結果項目を参考に「このポジションではリーダーシップとチームワークの項目に注目しよう」といったように、社内での共通認識化もしやすくなります。

 

ぜひ人材要件の設計に、適性検査SPI3をご活用ください。

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