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研究結果からみる、メンター制度の有効性と成功のカギ

2018年05月23日調査・研究

メンター制度、「とりあえず」になっていませんか?

5月になり、そろそろ新人が配属されるころではないでしょうか。新人の育成のため、メンター制度を導入している企業も多いと思います。しかし、「ただ先輩社員をアサインしているだけ」になっていませんか?今回は、メンター制度に関する研究結果をもとに、成功の秘訣をお伝えしたいと思います。

今さら聞けない!メンター制度とは?

メンター制度は、HRM研究の分野においてはメンタリングという分野で扱われています。メンター制度は「知識や経験の豊かな者(メンター)が、未熟な者(メンティ)に対して、キャリアや心理社会面での発達を目的に、継続して行う支援行動」とされています(Kram,1985)。

このメンターという言葉は、ギリシア神話の1つである『The Odyssey』の登場人物である「メントール(Mentor)」が語源と言われています。メントールは、オディッセウス王の相談者・助言者であり、王の息子にとっての指導者・理解者・支援者として描かれています。この物語を踏まえて、今日的にメンターは「未熟者に対する経験豊富な支援者・指導者・教育者」といった意味合いで使用される言葉になっています。

メンター制度とOJTは似ている概念ではありますが、久村(1997)では、その違いを目的の違いから分類しています。OJTの目的は「現在必要な知識・スキルの習得」である一方、メンター制度の目的は「将来必要になる知識やスキルの習得も含んでいる」としています。キーワードで簡易的に整理すると、以下のような違いがありそうです。

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メンター制度の3つの機能

諸説ありますが、メンター制度には大きく分けて以下のような3つの機能に分類できると言われています。

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これら3つの機能全てを満たす必要はありません。自社で導入するときには、どこに注力するメンターなのかを明確にして任せることで、メンティへのかかわり方のイメージがつきやすくなり、効果的でしょう。

注目が高まるメンター制度 ~中小企業でも過半数が導入~

一昔前と比べて、手厚いOJTや教育的なフォローを受けづらい環境におかれている今、メンター制度は最近改めて注目されてきています。たとえば、短期業績への圧力が高まる中、教育への投資が減少したり、仕事の難易度は高まっているにも関わらず、指導する中堅層が不足し、丁寧に教えて育てることができなくなっていたり...こうした環境下で、組織的にメンター制度を導入する企業が増えているのです。

少し古い調査にはなりますが、HR総研の「人事白書2015」では、メンター制度を実施している企業は、大企業(1001名以上)で62%、中堅企業(301~1000名)で43%、中小企業(300名以下)で51%に及んでいます。

メンター制度の効能と注意点

多くの企業が導入しているメンター制度ですが、導入するとどのような効能があるのでしょうか。対象別に以下のようにまとめてみました。

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私が新人のときもメンター制度があり、贅沢なことに先輩社員が3人ついてくれました。新人で何もわからない状況でしたが、周囲の先輩はみんな忙しそうでしたので、まず「質問をしていい相手」がいるだけで安心感が生まれました。当然ながら、FBをもらったり先輩方の仕事ぶりを見ることで、自分の仕事の進め方を見直すことができました。

一方自分がメンターになったときには、これまで自分の中に溜め込んでいたノウハウをアウトプットして伝える機会になり、知識の言語化や棚おろしのいい機会になったと感じています(非常に大変でしたが...)。

メンター制度研究の事例

ここからは2016年に弊社で行った研究内容をもとに、メンター制度の可能性と成功するための要因について考えてみたいと思います。

研究概要

◆研究目的

メンター制度の効果、およびメンターとメンティの性格タイプのマッチングの有効性について明らかにすること。
具体的には以下のようなことを検証しています。

①メンターからの支援を多く受けると、若手の適応感が上がるのか
②-ⅰメンターの性格タイプによって支援の量が変わるのか
②-ⅱメンティの性格タイプによってメンターからの支援の量が変わるのか
③-ⅰメンター・メンティの性格タイプが一致していると、メンターから多くの支援を受けるのか
③-ⅱメンター・メンティの性格タイプが一致していると、若手の適応感が上がるのか

◆対象者

メンティ:自動車メーカーA社の研究開発部門の2年目社員 137名
メンター:上記メンティのメンター(メンターは所属部署の先輩もしくは上司)

◆調査方法

メンティに対して「どのような支援をどの程度受けているか」「適応感を感じているか」に関するWEBアンケートを実施。メンティ、メンターの「性格タイプ」は社内データベース上のデータを活用。

※性格タイプについて
総合検査SPI3で用いられている性格4タイプを使用。各タイプの特徴は以下の通り。

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わかったこと1 メンター制度は有効な施策である

メンター制度支援を多く受けていると感じている人が、少なく受けていると感じている人に比べて、適応感が高いことが確認されています。

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この結果は、メンター制度支援の有効性を示唆している内容と捉えることができます。メンター制度は上手く機能すれば、有効な施策であることを改めて示している結果と考えられます。

わかったこと2 メンティからの積極的な関わりの重要性

メンティが「創造重視」タイプだと、「調和重視」や「秩序重視」タイプと比べてメンター制度支援を多く受けていると感じやすいことがわかりました。

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この結果は、「創造重視」タイプが、他のタイプに比べて支援されやすい性格タイプである可能性を示唆しています。「創造重視」タイプは、社交的で自分の考えを率直に表せる対人面で積極的なタイプですが、「調和重視」「秩序重視」タイプは、確実さや手堅さを重視し、対人面ではどちらかというと受け身になりがちなタイプです。「創造重視」タイプは、メンターに対して自ら積極的に関わることで、結果的に引き出している可能性が考えられます。

これは、「創造重視」タイプがメンター制度を受けるうえで望ましいという話ではなく、メンティからメンターへ積極的に働きかけることの重要性を示唆しているように捉えています。性格は一般的に変化しづらいと言われていますが、適切に自己認識ができていれば、自身の行動を変容させることは可能です。仮に対人面は苦手でなかなか積極的になれないタイプの人でも、意識的に行動を変えて自ら関わろうとすることで、相手の支援を引き出すことはできるのではないでしょうか。

メンターが積極的に育成に関わろうとしない、ということにお悩みの場合は、メンティ側からの働きかけを促すのも一つの手かもしれません。

わかったこと3 相互理解の重要性

一部の性格タイプで、メンティとメンターの性格タイプが一致している方が、適応感が高いことが確認されました。

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本研究で性格タイプの一致/不一致で差が現れていたのは「秩序重視」タイプでした。「秩序重視」タイプは、着実に物事を進められるという長所を持つ一方で、柔軟性に欠けるという特徴も持っています。こうしたタイプにとっては、自分と似た性格のメンターの方が、コミュニケーションがとりやすく、キャリアイメージもつきやすいため適応感を得やすかった可能性が考えられます。

一般的に、性格タイプが一致している方がコミュニケーションはスムーズだと考えられますが、実務上メンターマッチングを検討する際は、豊富な人員の中からマッチングが検討できるわけではありません。多くの場合は、部署の先輩にあたる人がメンターとして選ばれることが多いのですが、それだけでもかなり選択肢が限られることになります。

そうした際、マッチング以上に重要になってくるのが、メンターとメンティの相互理解なのではないかと考えています。タイプが異なったとしても、お互いの特徴を理解することで「この新人がこういう行動をとっているのは、こんな性格だからかな?」などと行動や考えの背景がわかり、コミュニケーションがスムーズになります。

メンター制度を始めるときに相互理解を意図した導入を行ったり、お互いの適性検査の結果等あれば、それを共有し合うだけでも理解が深まるでしょう。そうすることで、メンター・メンティ間の葛藤やトラブルを減らすことができるかもしれません。メンター制度導入に当たっては、メンター・メンティ間の関係性の問題から組織に葛藤やトラブルを引き起こしてしまうリスクが指摘されています。メンターとメンティの相互理解のきっかけや材料を提供することで、こうしたリスクを低減できるかもしれません。

まとめ

今回は、メンター制度をテーマに、メンター制度の機能や効能、メンター制度導入に向けての成否のポイントについてまとめてみました。
今回の研究では、以下の3つが明らかになりました。

  • メンター制度は有効であり、メンティの適応感を高めることができる
  • メンティから積極的にコミュニケーションを取ると、メンターの支援を引き出しやすい
  • メンティとメンターが相互理解をすることで、メンター制度の効果を高めることができる

ぜひ、上記のポイントを貴社のメンター制度にも取り入れていただければと思います。

また、今回の研究結果とは関係ありませんが、メンター制度を行う上では、「メンターにどのような役割」を任せるのかを伝えることも重要です。お客様と話をしていると、「新人が入ってきたから、とりあえず先輩社員をメンターにつける」という運用が多いのではないかと感じています。

メンター制度を有効に運用するために、メンター制度の機能や効能等のメンター制度の基礎知識やメンターへの期待役割を伝えるだけでも、メンターの関わりの質が変わってくるのではないかと思います。新人育成・フォローを考える際に、ご参考にしていただければと思います。

※参考文献

Kathy E.Kram.(1985) Mentoring at Work: Development Relationships in Organizational Life. 渡辺直登,伊藤知子訳. メンター制度会社の中の発達支援関係.東京:白桃書房,2003.
久村恵子(1997) メンター制度の概念と効果に関する考察-文献レビューを通じて-.経営行動科学第11巻第2号,81-100.
榊原(関)圭子,石川ひろの,木内貴弘(2013) 日本語版Mentoring Functions Questionnaire 9項目版(MFQ-9)の信頼性・妥当性の検討.産業衛生学雑誌,55(4):125-134

※研究詳細...使用した変数について

・メンター制度支援量
榊原(関)・石川・木内(2013)が開発した,日本語版Mentoring Functions Questionnaire9項目版(以下,日本語版MFQ-9)を使用。尺度、質問項目例、信頼性係数は以下の通り。
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・メンティの適応感
2011年に(株)リクルートマネジメントソリューションズが開発したサーベイを使用。尺度、質問項目例、信頼性係数は以下の通り。
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