導入事例

共創型OJTの取り組み
~若者の個を生かして事業変革のスピードを高める~

株式会社NTTデータ
目的・課題

従来の徒弟制度型OJTでは上司や先輩のやり方に倣うため、新入社員が組織ごとに同質化する、自律的思考が身につきづらい、仕事の価値を実感しづらいなどの課題があった。

SPI3の
活用方法

育成方針を「共創型OJT」に転換。施策の効果や新入社員の特徴を測定するためのデータの取得、可視化ツールとしてアセスメントを活用した。

効果

共創型OJTで育ったメンバーには、主体性や顧客視点、キャリア自律性などの観点で従来型からの明らかな改善が見られた。

 私は新卒でNTTデータに入社し、金融系SE・新規事業開発の経験を15年積んだ後、2006年から人事・人財育成業務に従事し17年目になります。人事領域では2015年まではコーポレート人事として人財育成業務に従事し、2015年からは部門人事として人事全般を担当しています。

ビジョン実現に向けた「DX領域で活躍できる人財」「自律的な人財」育成

 取り組みの背景には、当社のビジョンである「Trusted Digital Partner」があります。
DX領域においても信頼されるビジネスパートナーになりたい、ということを掲げています。
このビジョンを推進するための3つのテーマがあります。

 1つ目のテーマは「お客様の事業変革・事業成長に貢献する」です。
当社はシステムインテグレーション(SI)を主力事業としてここまで成長してきたわけなのですが、デジタル化の波により、顧客との共創による事業成長への貢献など、多様な価値提供を求められるようになってきています。顧客のニーズにこたえ、顧客が創りたいシステムを開発するだけでなく、一緒に事業を成長させていくうえでのパートナーとして貢献する、ということが期待されているのです。

 2つ目のテーマは「DX領域で活躍できる人財の育成」です。事業上重要な人財育成テーマとおいており、具体的には、「構想策定から価値を出せる人財」「先進テクノロジー人財」「それらを理解・統合して顧客に価値提供できる人財」の3種類の人財が必要だと考えています。

 3つ目のテーマは「顧客をリードするマインド・文化の醸成」です。新しい価値を生み出していくのであれば、人財育成だけではなく、組織運営についても、変革が必要だと考えています。具体的には、ヒエラルキー型ではなくネットワーク型の自律共創型組織が、新しい価値の創造にはフィットしており、当社もそのような文化醸成を行いたいと考えています。また、そういった組織で活躍できる人財とは、「自律的な人財」であると考え、人財育成の注力テーマの一つに置いています。

「徒弟制度型OJT」から「共創型OJTへ」

 これまで当社では、「徒弟制度型OJT」が新入社員育成施策の軸となっていました。
入社後2年間を育成期間とし、新入社員一人ひとりにトレーナーを配置する「トレーナー制」による人財育成方法です。基本的には現場に育成責任を持たせたうえで、新入社員を仕事の初心者として扱い、通常業務の指導はもちろん、先輩社員の仕事の手伝いや事務作業についても大事な仕事のひとつであるとして、先輩社員が手取り足取り指導していく制度でした。その間は異動もなく、初期配属については会社が決める、新入社員はそれを受け入れる、という考え方です。

 この制度は私が入社したときにはすでにあったくらい古くから存在していたため、今の時代に合っていない部分もあるのではないか、アップデートが必要なのではないかと考えていました。具体的にいくつか課題も見えていました。

●上司・先輩社員のやり方を是として後輩に伝えていく徒弟制度なので、同じような社員しか育たない

●「先輩社員(トレーナー)が教える人」「新入社員(トレーニー)は教わる人」という役割になっているため、新入社員はおのずと受け身になりやすく、自ら主体的に考え行動する姿勢が身につきにくい。

●仕事の初心者でもできるようにと切り取った作業を渡されるので仕事の意義や意味、価値を実感しづらい

●テレワーク率が75%と、オンライン中心になり、観察学習・観察指導が難しくなっている状況である

●会社がキャリアを決めて成長の道筋を考える、というやり方なので、キャリア自律の意識も生まれづらい

 事業環境や新入社員の価値観が変わってきているなかで、時代に合った形にOJT制度もアップデートすべきである、と考えました。その考えのもと、2020年から従来型のトレーナー制度を廃止し、「共創型OJT」として「新入社員同士でチームを組み、チームでひと固まりの仕事を進めていくことを通して主体的に考え行動できる人財を育成する」という形を取っています。

DX人財の早期育成を実現する「デジタル特区」と自律を促す「本部内インターンシップ」

 共創型OJTでは、マイクロマネジメントをせずに、新入社員たちが「何をするか」から「やり方」まで自分たちで考え、実現に必要な知識やスキルは自分たちで自学自習し、自分たちで形にしていきなさい、という育成スタイルを取っています。主に2つの取り組みを行っています。

 1つ目は「デジタル特区」という取り組みで、アジャイルエンジニアとサービス/ビジネスデザイナーを早期育成する2年間の育成プログラムになります。アジャイルエンジニアを育成するために、新入社員を「アジャイル特区」に配属し、スクラム開発に取り組んでもらいます。また、ビジネス/サービスデザイナーを育成するために「サービスデザイン特区」に配属し、新規サービス検討を通じて育てるという取り組みになります。

 もちろん新入社員同士だけではなくプロからの学びが重要となりますので、アジャイル特区ではアジャイルエンジニアの先輩との共創の機会を設けています。
また、サービスデザイン特区ではグループ会社のNTTデータ経営研究所やアーテリジェンス社のコンサルタントから知見を得るなど、社内外の有識者からの学習機会も設けています。
新入社員を入社後2年間、各特区で育成した後、3年目以降は本人の特性やキャリア志向を踏まえて再配置を行っています。

 2つ目は「本部内インターンシップ」という取り組みになります。
1年間の育成プログラムで、5人の新入社員でチームをつくり、各組織で用意されたジョブ(業務ミッション)にチームで取り組んでいきます。いろいろな組織を渡り歩きリアルなジョブを経験することで、1つの組織に染まらずに成長していくことを意図しています。
あらかじめ新入社員の間に身につけるべき力や行動を整理し、これらが期間内に身につけられるようなジョブを設計・アサインして欲しいということを各組織に依頼しています。

 ジョブの一例として、大手小売企業に協力いただき当社の本社内にレジ無しの店舗を開発してオープンするという取り組みを行いました。店舗設計から運用業務設計、店舗オープンやメディア対応まで新入社員チーム主体で実施しました。

 また、本社の近くにあるカフェに協力いただき、カフェの売上向上を新入社員チームのミッションとし、業務理解から店舗業務改善、ペルソナワークショップ、店舗のビジョンメイクなどの活動を新入社員自らが企画・設計し推進していくような取り組みも行っています。
1年間の仕事経験を通じて自分のやりたい仕事が見えてきた2年目に、本人の希望や特性を鑑みたうえで、基本的には希望通りの配属を行うことにしています。

データを通じて施策の効果を可視化。デジタル特区の若手社員の特徴も明らかに

 共創型OJTでは、先輩から教わる、ではなく自ら経験してそのなかで学ぶ、「経験学習サイクル」を回していくことが重要となります。経験学習サイクルを回していくには、経験からの学習・教訓化が肝になりますので、毎月ワークショップを行い、学びの言語化と共有を行っていきました。また、目標管理の方法としてはOKR(Objectives and Key Results)を導入し目的志向での仕事の進め方や、仕事に挑戦するワクワク感を体感できるようにしています。

 施策を進めるうえで工夫した点は、「データによる可視化」です。
新しい取り組みですし、現場の協力も得ながら進めていく必要があるため、データにより「効果」を可視化していくことは非常に重要となります。
また、データは施策をさらに進化させていくうえでも欠かせない要素になります。
可視化の対象は、「効果」にとどまらず、新入社員の「上司からの評価」「本人のロイヤリティ・メンタリティ」「本人の資質・志向仕事観」にも広げて行いました。

 SPI3 for Employeesは、「資質・志向仕事観」を可視化するツールとして導入しています。導入に至ったのは、アセスメントとして品質への信頼がベースにあったこと、SPI3 for Employeesのフレームや項目が、人物特徴を捉えるうえで納得感を持てたことが理由となります。

1点興味深い分析結果として、従来は金銭や安定にモチベーションを感じる従業員が多かったのですが、共創型OJTを経験した若手は挑戦や創造にモチベーションを感じている点があります。

 さまざまな角度で分析を行うことで、デジタル特区の職務・組織に適応しやすい人財の特徴が見えてきており、今後の配属の参考にしていきたいと考えています。
主力事業であるシステムインテグレーションの領域で活躍する人財を採用し育成することには引き続き力を入れていきますが、そのなかであってもDX領域で生かせる適性のある人財を埋もれさせないようにアサインし育成していくことにも注力していきたいと考えています。

新入社員の主体性・自律性を信じることが、成長を加速させる

 現時点の成果は、共創型OJTで育ったメンバーに対する現場上司からの評価が高いことがあげられます。
「主体的である」「顧客への意識が高い」など、ポジティブな声も多く上がっています。

 実際の新入社員のケースですが、あるチームは全員がプログラミング未経験で、初日のテストでは0点を取ったメンバーもいました。
そのような不安な状況からのスタートでしたが、 チーム内で「未経験だからこそユーザー視点を大切にし、本当に相手が欲しいものを見出し、価値を生み出す」ということを軸に据えて、就活生の知りたいことにこたえるWEBサイトを短期間で作り上げました。実際にそのサイトは非常に良いアウトプットとなりました。また、その過程で自主的に勉強会も行い、入社1年にしてプログラミングスキルチェックでランクA(上位8%)を獲得するまでにスキルレベルも向上しました。現在ではリードエンジニアを目指すと言ってくれています。
こういった新入社員自身が自律的にキャリアについて考え、主体的に成長していってくれる姿を見ると、意図通りの施策になっているのではないかと感じます。

 施策におけるポイントとしては、「新入社員が将来どのようなビジネスパーソンになってもらいたいかから逆算をすること」だと思います。
当社の場合は先輩社員が苦手な領域/できない領域で活躍してもらいたい、ということがありましたので、これまでの徒弟制度ではなく新しいアプローチが必要だと考えました。

 また、チームにひと固まりのジョブをアサインし、主体的な自主学習が進む形で育成を行ったことも良かったと思います。取り組みを通じて、新入社員がわくわくして取り組めるようなテーマと環境が整えば、自ら学習・経験を重ねて成長してくれる、ということを実感しています。

共創型OJTが組織にもたらす影響

 先日、デジタル特区のアジャイルチームが開発を手掛けた温室効果ガス排出量の算定・可視化プラットフォーム開発の取り組みが、当社の社長表彰を受賞しました。
「アジャイル人財の育成」において、効果・成果が見えてきたのを実感しており、さらに拡大させていくフェーズだと捉えています。

 このような若手が増えていくことは、先輩社員にとっても刺激になりますので、若手を起点に意識改革をさらに進めていきたいと思います。若手の意見をサービスに生かす、そこから学びを得る「リバースメンタリング」の文化が定着していくと、若手が生き生きと主体的に成果を上げる組織・会社になっていくと思います。
これからも、NTTデータの新しい人財育成の在り方について模索し、進化させていきたいと考えています。

法人事業推進部 企画部 HR担当 部長 矢野 忠則 様 

株式会社NTTデータ

従業員数:
約19万名(グループ全体/2023年3月31日現在)
業種:
通信・情報処理・ソフトウェアサービス 
課題:
  • キャリア自律
  • 組織開発
  • 配属・異動

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